ポストコロナ環境の「タイパ」とは ── 「トキ消費」市場とコミュニティとコマースを活用した大手メーカー事例の考察

ポストコロナの環境における生活者の消費行動として注目される「トキ消費」にスポットをあて、時短ではなく「同じ時間の価値を高める」ために投資を行う生活者と、それに応えるための企業からの提案やつながり方について整理と考察をします。
トキ消費の象徴はテイラー・スウィフトの経済学「スウィフトノミクス」

2024年2月、フィメールポップの女王「テイラー・スウィフト」が8年ぶりに来日し、4日間の東京ドーム公演を行いました。報道やSNSでその熱狂の様子をご覧になった方も多いと思います。もしかしたら、現地に訪れ「トキ消費」を満喫した方もいらっしゃるかもしれませんね。
このテイラーの世界ツアー「THE ERAS TOUR」は、世界的なコロナ禍明けを象徴するかのように2023年3月からスタートし、2024年末までに150公演以上の開催を予定しています。その興行収入は1400億円以上の記録的な売上が見込まれているとのこと。それに加えて、ツアー会場に選ばれた地域周辺ではホテルやレストランが混み合い、大きな経済効果をもたらしています。このテイラーによる経済効果を「スウィフトノミクス」と呼び、トキ消費の象徴として語られています。スウィフトノミクスの具体的な影響を2つ紹介します。
チケット代が560万円まで高騰
米国でチケット販売が開始されるとチケットのWebサイトには受付と同時に1400万人が殺到してアクセス不能になりました。限られたチケットは転売市場で急騰し、560万円以上を提示する売り手も現れるほどの争奪戦となりました。
シンガポールがインフレになる
テイラーのツアー先として「選ばれた」シンガポールでは、公演期間にあたる24年3月2日〜9日の3つ星、4つ星ホテルの価格がその前の週に比べて20%高くなり、また東南アジアの他都市からシンガポールに行く航空券は通常の3倍近い価格となりました。
スウィフトノミクスでは、高いチケット代を支払うだけではなく、会場に行くまでの高い交通費や宿泊費にまで投資を惜しまない消費行動が出現しています。その時、その場所でしか経験できない体験に大きな投資をする、まさに「トキ消費」を象徴する消費行動だと感じます。
参考:日経新聞「香港素通り、議論の的 スウィフトさんがシンガポール6公演」
タイパは「時短」だけではなく、「時間の価値を高める」に広がっていく
タイパ(タイムパフォーマンス)は、コンテンツ過多の環境において広がった行動です。日経新聞がまとめた2022年のヒット商品番付で東の横綱に選ばれたことでも浸透度が伺えます。これまでのタイパは時短や効率化の文脈で語られることが多く、例えば倍速での動画視聴や、「chocoZAP (チョコザップ) 」のような費用対効果を高めたサービスがその例にあげられていました。もちろん時短文脈のタイパの追求はこれからも強まっていくと思いますが、今回取り上げるトキ消費は別の方向でのタイムパフォーマンスを意味しています。
トキ消費におけるタイパは「時間の価値を高める」ためのパフォーマンスの向上を指しています。同じ時間を過ごすならば、より価値が高いモノ・コトに投資をする。そんな選択をする生活者が増えてきました。トキ消費には以下の3つの要素があると言われています。
非再現性:時間や場所が限定されていて同じ体験が二度とできない
参加性 :不特定多数の人と体験や感動を分かちあう
貢献性 :盛り上がりに貢献していると実感できる
トキ消費の3つの要素は、生活者の時間の価値を高めるとともに、提供する側との深い関係値を築く要素にもなり得ると感じています。生活者と企業の新しいつながり方の道標にもなる考え方です。こうした「トキ消費」を支える体験を、コマースやコミュニティを使って提供する大手メーカーの事例に注目してみます。
参考:日経新聞「ヒット商品番付、横綱「コスパ&タイパ」「#3年ぶり」」
参考:博報堂WEBマガジン「モノ、コトに続く潮流、「トキ消費」はどうなっていくのか」
江崎グリコの商品ファンサイト「ポキトモ」── 特別なイベントも日常の風景も。「トキ消費」を共有するイベントとコミュニティを提供

参考:江崎グリコ「ポキトモ」
参考:江崎グリコ「GlicoメンバーズID」
江崎グリコの商品ファンサイト「ポキトモ」に注目してみます。スローガンに「Share happiness!」を掲げるポッキーが、ポッキーを通じて日々のコミュニケーションやお悩みの解消を支援し、幸せな気持ちづくりに貢献したいという想いで開設されました。トキ消費に貢献する印象的なコンテンツに「ポッキーひみつの開発室」があります。ポッキー担当者やポキトモメンバーと直接話をする機会を少人数制のオフライン・オンラインイベントで提供しています。非再現性・参加性・貢献性の3つのトキ消費の要素を満たすコンテンツです。参加者の時間の価値を高めると同時に、ブランドへの愛着や深い関係づくりを実現するコンテンツでもあると思います。
ポキトモではこうした特別なイベントに加えて、「今日のポッキー」という日常をテーマにしたコミュニケーションを実施しています。普段のポッキーを食べている様子を「まったり」と投稿して欲しい。そんなテーマを提示し、ポッキーがある日常の投稿を促しています。日常の様子であっても、こうしてブランドのコミュニティに投稿を残すことによってそれが非再現性を有する特別な体験になる「トキ消費」の可能性を感じるコンテンツです。
「GlicoメンバーズID」によって、コマース・他ファンサイト・コミュニティとつながる
ポキトモへの登録には「GlicoメンバーズID」が使われています。GlicoメンバーズIDは、江崎グリコが運営する対象サイトを共通で利用できるブランドIDで、1つのIDとパスワードを使って対象のオンラインサービスを利用できます。現在は、「ポキトモ」に加えて、「with Glico」「グリコダイレクトショップ」「グリコピア」「スマイルビスコ」「Team17」「CLUB Bâton d'or」の合計7つのサイトを利用できます。(2024年4月現在)
対象サイトを確認するとポキトモ以外にも、工場見学体験ができる「グリコピア」や、ファンイベントを開催する「CLUB Bâton d'or」など、トキ消費を提案するサービスを展開しています。そうした各サイトやコマースサイトの「グリコダイレクトショップ」のIDを統合管理することで、関係性を深めたお客様がどのように江崎グリコ全体のサービスやブランドを利用・購入してくれるのか、そんな深い顧客理解のための分析も可能になってくると思います。トキ消費の体験を提供し、高い顧客体験と深い顧客理解を実現している事例として紹介させていただきました。
キユーピーはレシピ・商品情報の隣に「体験」を置く

参考:キユーピー「商品サイト」
参考:キユーピー「キッチンカー『ゆでたまスタンド』プレスリリース」
調味料メーカー「キユーピー」の商品サイトのTOPメニューに注目しました。同社は「レシピ」「商品情報」の隣に「体験・エンタメ」のコンテンツを配置しています。モノ消費からコト消費、そしてトキ消費へと変遷していく消費行動を反映したコンテンツ配置なのではと考えさせられます。
商品情報と並ぶ体験・エンタメのコンテンツも豊富です。マヨネーズにまつわるさまざまな情報やトピックを体験しながら学べる見学施設「マヨテラス」、野菜の魅力を体験できる複合施設「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」、全国3工場の工場見学などが提供されています。加えて、キッチンカーを派遣しキユーピーのたまごの試食体験を提供する「ゆでたまスタンド」のイベントがとても印象的でした。豊富なコンテンツでトキ消費を支えている様子が見て取れます。
また、キユーピーもこうしたレシピやイベントなどのサービスを体験したお客様とコマースを、「kewpie ID(キユーピーID)」を用いて統合管理しています。企業が提供するトキ消費という高い顧客体験を経験したお客様との継続的なつながりが求められていること、さらにこうした高い顧客体験の提供のためのお客様の深い理解のために、数ある顧客接点で得た顧客情報の統合と分析が進んでいます。
お客様との深い関係構築の第一歩「IDソリューション」を提供しています
App Unityでは、店舗、ECサイト、コミュニティサイトなど、さまざまなチャネルのログインID・顧客情報・ポイントを独自開発することなく低価格で連携するための「IDソリューション」を提供しています。顧客との永く親密な関係を続けていくため、より良い「トキ消費」を提供するための第一歩となるID統合を支援していますので、活用・検討の際にはぜひご相談ください。
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執筆者紹介

舟久保 竜
総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。統合IDとCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDecosystem」の実現を目指す。























