アップルとApple IDに学ぶ、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)への道標

ポストクッキー時代の企業と生活者のつながり方において、大切な視点として「G-DL(グッズ・ドミナント・ロジック)」から「S-DL(サービス・ドミナント・ロジック)」への移行があります。本記事では、改めてマーケティングに置いて重要な要素となったS-DLについての説明と、S-DLを広げている最も著名なプレイヤーとして「アップル」を取り上げ、彼らの取り組みと実績について説明します。
S-DL:サービス・ドミナント・ロジックとは
S-DLは2004年に米国のマーケティング研究者であるラッシュとバーゴによって提唱されました。サービス・ドミナント(中心)ロジック(論理)は、企業が提供する商品を、有形か無形か、モノかサービスかに関わらず、全ての経済・経営活動を「サービス」として包括的に考えます。旧来は「モノ中心(G-DL)」であった企業と生活者との関係性やつながり方の変容を促す考え方です。G-DLからS-DLへの変容の特徴的な項目をシンプルにまとめると以下になります。

商品から、有形・無形を問わないサービスの提供に。
製品による便益の提供から、経験価値の提供に。
機能や属性の提案から、顧客のJOBに対するソリューションの提案へ。
市場に相対する姿勢から、市場とともに進む姿勢に。
これらのS-DLへの移行コンセプトは、2024年1月に34年ぶりに刷新された「日本マーケティング協会(JMA)」のマーケティングの定義*にも色濃く反映されています。JMAは新しい定義を推敲するためのキーワードとして「企業と顧客の価値共創」「ステークスホルダーとの関係性の構築」「社会課題の解決」「持続的成長」などを挙げています。企業と生活者との新しいつながり方は、生活から社会まで広く課題を解消するために、有形・無形を問わないサービスを両者で共創するための視点が必要になります。
マーケティング5.0:人間中心マーケティングの要素となる「S-DL」
フィリップ・コトラーはマーケティング5.0は「人間中心マーケティング」の時代だと説いています。そこでは、経済活動の基盤はモノの販売ではなく、「信頼」と「他者への奉仕」という人間の価値であることを示しています。そして、人間中心のマーケティングモデルを構成する3つの要素として「デザイン思考」「デジタライゼーション」とともに「S-DL」を挙げています。
S-DLは前述の通り、モノ中心の交換モデルからサービス中心の交換モデルへの移行を促すものであり、企業が生産者の視点から、顧客の生活と社会のJOBの解決へと視点を移すための意味を持っています。モノを売ることを最終地点とせず、そこを出発点として顧客の生活や顧客が関わる社会をよりよくするベネフィットを提供するための長期的なつながりが、これからの企業と生活者のつながり方になることを示唆しています。
コトラーはG-DLからS-DLへの移行を進めている企業とサービスについて、以下のような例を提示しています。
GEは、機器の提供から、設置、保守、施設運用の提供にまで事業領域を拡大した。さらに一歩進んで、競合他社や市場から撤退した企業の機器にも保守サービスを提供している。彼らの2019年の950億ドルの年商のうち、45%以上がサービス事業による貢献だった。
IBMもサービス志向への転換に成功した。この移行は2004年、同社によるレノボへのPC部門売却をきっかけに始まり、サーバー、ストレージ設備等のハードウェアの売却がその後も続いた。IBMはカスタマイズされたソフトウェアソリューションプロバイダーへと生まれ変わり、「オンデマンド」サービスを提供するようになった。この時期、同社の年商は1000億ドルだったが、収益性は飛躍的に向上した。
加えて、常に世界の時価総額TOP3に君臨する「アップル」はコンピュータからはじまり、携帯音楽再生機、携帯電話、腕時計、VR端末とモノの領域を広げるとともに、モノでつながる顧客との関係を、サービスでのつながりに広げることで、世界で最も評価される企業であり続けてきました。アップルが広げているサービスを学びながら、S-DLへの道標を見つけたいと思います。
アップルの製品は世界で22億台が稼動していて、9億人がApple IDでサブスクリプションを利用している

まずアップルのモノ(グッズ)に着目すると、2023年末には全世界で22億台を超えるアクティブなデバイスが稼動しています。私たちの普通の暮らしの中で、Mac、iPhone、iPad、Apple Watch、AirPodsなどなど、毎日アップルのデバイスに触れ、多くの人がアップルデバイスを使いこなす様子を目にします。このように広がったアップルのG-DLをS-DLへと拡張するのが「Apple ID」です。Apple IDを使ってサブスクリプションを利用する人は、2022年に9億人に達しました。ほぼすべてのアップルデバイスで使用時にApple IDの登録を求められ、登録をすることでデバイスのオーナーは以下のようなアップルのサービスとつながることになります。
App Store&Apple Arcade
Apple Books
Apple Music
Apple Pay
Apple Podcast
Apple IDはこれまでモノの購入が終点だったものを、サービスを届ける始点に変えるS-DLの入り口として大きな役割を担っています。
Apple IDは顧客の経験価値を高め、顧客との永い関係構築を実現する
こうしてApple IDによってサービスとつながったデバイスは、モノを買い替えることなく購入時よりも高機能により便利にアップデートすることができます。生活をより便利に楽しくするアプリをインストールしたり、知的欲求を満たしてくれる本や音楽を届けてくれます。加えて、Apple IDを介して複数所有するデバイス同士をシームレスにつなげ、iPhoneでコピーしたテキストをMacBookで貼り付けることができたり、MacBookでオンライン会議を行う時にiPhoneをWebカメラとして利用できるなど、デバイス同士でお互いの機能を補完でき、より便利に活用することができるようにもなります。
アップルのデバイスオーナーはこうしてモノだけではなく、Apple IDを通したサービスを体験することで、購入したデバイスがどんどん便利になっていく、生活がより楽しくなる経験価値を感じ続けることになります。顧客はアップルのS-DLの中で高い経験価値を実感し、有形無形を問わず、アップルのサービスを永く使い続けたいと思う関係を築いていくことになります。
アップルのサービス部門の売上構成比は2割を超え、モノが売れにくい時代に業績を支えるようになる
アップルが発表した2023年9月期の通期決算はハードウエア部門の低迷がひびき、4年ぶりに減収減益となりました。ハードウエア部門におけるモノの販売の低迷は、ポストコロナ環境における急激な需要の高まりからの反動や、中国市場の低迷など時期的・地政学的な要因に加えて、米国において「修理する権利」の法律が制定されるなど、新しいモノを買い替えるのではなく、今あるモノを長く使っていこうとする循環型経済の進行といったトレンドも背景にあると思います。G-DLからS-DLへの移行が必要な理由として、こうした新しいモノが買われにくくなる、買い替えサイクルが長期化する社会においての企業と生活者の新しいつながりを構築していかなくてはならないという状況への対応も含まれています。
アップルはこのような社会の変化に、Apple IDを基盤としたS-DLで対応しています。モノの不振をサービスの提供で補い、サービス部門は年間10兆円を超える売上を得ています。売上全体に占める割合は10年前の9.4%から22.2%に高まりました。モノによってつながってきた企業と生活者との関係を、サービスでのつながりに移行していくこと。その基盤として、顧客IDを整備し、IDによってつながった顧客を理解し、顧客の経験価値を高めるためのサービスを提供していくこと。ポストクッキーの環境や、買い替えサイクルが長期化し、新しいモノが買われづらくなる社会が進むことを想定し、Appleのこの道程を学び、マーケティングへの反映が必要になるのではないでしょうか。
お知らせ
S-DL構築の道標「IDソリューション」を提供しています
App Unityでは、店舗、ECサイト、コミュニティサイトなど、さまざまなチャネルのログインID・顧客情報・ポイントを独自開発することなく低価格で連携するための「IDソリューション」を提供しています。顧客との永く親密な関係を続けていくための、S-DL(サービス・ドミナント・ロジック)構築のための道標の第一歩となるID統合を支援していますので、活用・検討の際にはぜひご相談ください。
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執筆者紹介

舟久保 竜
総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。統合IDとCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDecosystem」の実現を目指す。























